何度も繰り返しになりますが、例えば僕は男で、同性愛的な嗜好はあまりないように思いますので、女性に対して扇情させられることがある。といって生物学的な女性の全てに均等にそうなるわけではなくて、やはり好みというものもありますから、自分にとって好ましいという女性に対して何事かを感じるわけです。
ところが、その好ましさに根拠がない。 先天的に自分にとって好ましい女性像というものが決定されているわけではないのです。女のシュミなんざ刻一刻と変化していくものですからね(笑) また、愛情を感じる女性、情欲を誘発させられる女性、癒され安息させられる女性、それぞれはイコールとは限らないですね。脈絡がない。実に不思議なものなのです。 社会的に見て、美人像というものはやはり変転し続けます。平安時代の外見的な美人の基準は僕にはどうもそぐわない。逆に言えば、その折々の社会性の中で美人という価値を、僕らは植え付けられている、洗脳させられているということでもあるでしょう。そして美人とは社会的な価値であるわけで、ある特定の面相が社会的にもてはやされるからこそそこに価値が生じる。愛情や恋心、情欲といったものは、内面よりおのずから、しみじみ湧き上がってくるようでいて、しかしその根底は社会性だとか文化といった内因的というより外因的なものによって決定され、支配されているということもであります。 この考え方によれば、自分自身を根底より支える内因的なある情感のほとばしり、感性というものが、つくづく自分根拠に成立している言葉に言い尽くせないある心のうごめきというより、時代や環境といった外因的な諸要素によって自分の中に醸造されたパースペクティブのある相対要因、環境や時代を好感すればいくらでもしっちゃかめっちゃかになる極めて不安定なものであろうといえるでしょう。 もちろん、それはだからどうしたというやつであり、それだからといって自分自身の感性というものがすぐさまに否定されるわけではない。現実に何かを感じて生きている我々の存在はあるわけですから。だけれども、自己存在の独自性、根拠というものを、正しく今まさにここに私が生きているというところに置く場合、その実感としての「わたしが感じた」ということは、そのように感じさせられているに過ぎないというある根底を揺さぶる欺瞞に絶えず侵食されていることを僕は忘れられないでいます。 もう一例を挙げます。 これも繰り返しだけれど、トイレットマナー。 赤ん坊のころなんて、オモラシしても別に平気なんですね。生理的に不快であるだけなんです。ところがちっとばかり大人になったら、糞尿というものは自ら生じたものでありながら触れることも見ることもいまいましいという感情に直結する不思議な存在になる。 何故そうなったか。それは周囲の大人がそうしつけたからですね。それは穢れであるから見ても触れてもならないということを繰り返ししつけ、それが我々の血肉になり、いつしか知識が直結して感性になっている。常人であればクソを顔に塗りつけられたら卒倒せんばかりに騒ぐはずです。僕自身もそうです。つまるところは、感性というのは多分、徹頭徹尾自分の内側から湧き上がってくるものではないということだろうと思います。それは、時代性や環境、風習、文化が違えば、いくらでも別の方法に変化することができるのです。そして、そういう外因的な装置によってボトムアップされている我々は、その文化的、社会的、つまり超個人的なシロモノを、自己存在の根源として奉っているわけですね。 そう感じるのはいいのです。 だけれども、確かに自分がそこにあって、自分が全く天然自然にその独自性を発揮して感性をうたっているという光景を眺めると、僕はその楽観的な歌声につい懐疑的になります。本当かなあと思う。そして、本当ってなんだろうと思う。 ストーリー展開やオチのつけ方なんかより、本当はそういう摩訶不思議な部分と決死の覚悟で対峙するという書き手の態度に、僕は緊張感を受けますし、面白みを感じるのですね。
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